泣きたくありません
私はまだ泣きたくありません。
尊敬する渡瀬恒彦さんの訃報を聞いたときから、
その現実を受け入れられないのです。
もう一緒にお芝居をさせて頂ける日が来ないなんて
認めたくないのです。
現場では、厳しく甘えを許さない渡瀬さんは、
私にとって、怖い存在でした。
渡瀬さんの前で、緊張のあまり、頭が真っ白になり
台詞を全部、忘れたこともありました。
初めて共演させて頂いたのは、私が20代前半の頃、
「海を渡った愛と殺意」という作品で、
東京と台湾ロケがありました。
海外ロケに不慣れな私とマネージャーを気遣ってくださり
撮影がないときは食事にも困っているだろうと、
何度も食事に連れて行って下さいました。
あるとき、有名な小籠包屋さんで、私が隣のテーブルを何の気なしに「あれ、おいしそう!」と指してしまったら、
「ゆびを指さない‼︎」と怒って下さいました。
ダメなことはダメだと、ちゃんと怒ったくれたのです。
怖いけど、厳しいけど、いつだってあたたかいまなざしで
現場を、私たちを見つめて下さっていました。
作品の中で、罪を犯してしまった女性として、
何度も渡瀬さんとご一緒させて頂きました。
渡瀬さんは、私の様子をじっと見極め、
私自身にすらわからない最善のタイミングで、
「本番、行こう」と声をかけて下さいました。
ときには台本にない言葉で、
私の心を大きく揺さぶるのです。
そうして、何度、涙がこぼれ落ちたことでしょう…。
あんな風に導いて下さる先輩は、何人もいないのです。
どんなに感謝しても足りません。
教えて頂いたことを胸に、
女優人生を全うできるよう、全うすることでご恩に報いることができるよう、これからも精進します。
本当にありがとうございました。
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- 03月20日 21:10